エブリー(607A)IPO初値予想と今後の見通し|デリッシュキッチン上場を徹底分析

「デリッシュキッチン」という名前を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。月間利用者数3,100万超、SNS総フォロワー数1,300万超という国内最大級のレシピ動画メディアを運営する株式会社エブリー(証券コード:607A)が、2026年8月4日(火)に東証グロース市場へ上場します。想定時価総額は47.7億円と小型ながら、先行投資フェーズから収益化フェーズへの転換点にあるタイミングのIPOとして、個人投資家の注目を集めています。しかし、累計調達額133億円に対して想定時価総額が47.7億円というダウンラウンド(調達時よりも低い評価での上場)の構造や、売出比率81.3%という需給面の課題も存在します。 この記事では、エブリーIPOの事業モデル・業績・需給・リスクを独自のフレームワークで多角的に分析し、申込判断に必要な材料をすべて整理します。

最終更新日:2026年7月6日

この記事でわかること

  • エブリーが「デリッシュキッチン」を核にどのように収益を生み出す構造なのか
  • 2021年〜2026年6月期の業績推移と黒字転換の実態を数字で理解できる
  • ダウンラウンド・売出比率・ロックアップ解除が需給に与える具体的な影響
  • 同業のクラシル(299A)・くふうカンパニーHD(4376)との独自比較で相対評価がわかる
  • 楽観・悲観シナリオ別の初値レンジと、個人投資家が抑えるべき申込判断ポイント

目次

  1. 第1章|エブリーの事業モデル|「食」データプラットフォームの全体像
  2. 第2章|業績分析|先行投資から黒字転換へのロードマップ
  3. 第3章|IPO概要と需給分析|ダウンラウンドと売出比率の実態
  4. 第4章|競合比較|「食×メディア×広告」3社独自比較フレームワーク
  5. 第5章|初値予想と申込戦略|シナリオ別レンジと証券会社選び
  6. まとめ|エブリーIPO申込判断の最終チェックリスト

第1章|エブリーの事業モデル|「食」データプラットフォームの全体像

エブリーが単なるレシピサイトではなく、食品メーカーと小売をつなぐデータプラットフォームとして機能している理由を整理します。事業構造を正確に理解することが、同社の成長ポテンシャルを評価する第一歩です。

デリッシュキッチンが生み出すオンライン×オフラインデータ基盤

デリッシュキッチンは、管理栄養士監修の動画レシピを累計57,000本以上公開するレシピ動画メディアです。同社のIR資料(2026年6月期第3四半期報告書)によると、2026年4月末時点でアプリ+ウェブを合わせた月間利用者数(MAU)は3,100万超、公式SNS総フォロワー数は1,300万超に達しています。この巨大なユーザー基盤から収集されるオンラインデータ(レシピ検索履歴・閲覧傾向・お気に入り登録など)が、同社のビジネスの核心となっています。私がこの銘柄の目論見書を読んだとき、最初に驚いたのはオフラインデータの厚みでした。全国11,000台以上の店頭デジタルサイネージ(店内に設置するデジタル広告端末)から実際の購買行動データを取得している点は、純粋なデジタルメディア企業との差別化要素として見逃せません。

オンラインデータとオフラインデータの掛け合わせにより、「どのレシピを見たユーザーが、どの店舗でどの商品を購入したか」というクロスチャネルでの購買行動の可視化が可能になります。食品メーカーにとってこれは非常に価値が高く、一般的なデジタル広告では測定しにくかった「店頭効果(広告が実際の購買につながったかどうか)」を定量化できる点で、他のメディアにはない独自のポジションを確立していると言えるでしょう。

大株主にKDDI株式会社(13.09%)伊藤忠食品株式会社(10.91%)加藤産業株式会社(10.91%)という大手食品卸・通信事業者が並ぶのも、このデータプラットフォームとしての戦略的価値を裏付けています。単なる財務投資ではなく、食品流通のデジタル化という共通テーマのもとで事業連携を前提とした資本参加である可能性があります。

売上74%を占めるMarketing Solutionビジネスの仕組み

Marketing Solutionビジネスは、食品メーカー等の広告主に対してブランドの認知拡大から店頭での購買促進まで、一気通貫のマーケティング支援を提供する主力事業です。同社目論見書によれば、2025年6月期における売上構成比は74%に達しており、エブリーの収益の大部分を担っています。具体的には、デリッシュキッチン上でのタイアップレシピ動画の制作・配信、店頭デジタルサイネージを活用した販促コンテンツの掲出、そして小売・卸企業との連携による購買データ分析レポートの提供などが含まれます。

このビジネスモデルの特徴は、広告主である食品メーカーが「1つのメニューの開発から消費者の購買完了まで」をエブリーのプラットフォーム内でサポートできる点にあります。例えば、ある食品メーカーが新商品を発売する際、デリッシュキッチンでのレシピ動画提案による認知形成、SNSでの拡散による関心喚起、そして店頭サイネージでの購買促進という流れをワンストップで設計・実行・効果測定できます。私が実際に確認した2026年7月6日時点の同社IR資料では、2026年6月期第3四半期累計のMarketing Solutionビジネス売上高は29.4億円(前年同期比約27%増)となっており、主力事業の成長加速が確認できます。

✅ ポイント
Marketing Solutionビジネスは食品メーカー向けの「認知→関心→購買→測定」を一貫して提供する構造で、単価の高い総合マーケティング契約へのアップセルが収益拡大の鍵となります。年間1,000万円以上の取引をするロイヤル顧客数の拡大が、最も重要なKPI(重要業績評価指標)と考えられます。

ConsumerビジネスとOther(受託)ビジネスの役割

Consumerビジネスは、ユーザー向けのサービスとして月額480円の有料課金「プレミアムサービス」と、栄養バランス対応の冷凍弁当「ミールズ」の定期便販売(Eコマース)で構成されます。有料課金ユーザーにはお気に入りレシピの無制限登録・限定レシピの閲覧などの特典が提供されます。直接の収益貢献はMarketing Solutionほど大きくはありませんが、アプリへのエンゲージメント(関与度)を高め、購買データの質と量を底上げする戦略的な役割を担っています。

Otherビジネスは、他社ECサイトのライブコマース機能のシステム保守・運用や番組制作など、自社メディア運営で培ったクリエイティブ制作力とシステム開発の知見を活かした受託業務です。大型受注案件への依存度が変動要因になる可能性があり、事実として同社目論見書の事業リスクにも「一部大型顧客からの受注減少の可能性」が記載されています。2026年6月期の全社売上成長率が18%予想に留まるのは、一部このOtherビジネスでの受注変動を反映したものと推測されます。

事業全体を俯瞰すると、エブリーは「コンテンツ(動画レシピ)でユーザーを集め、データで広告主の課題を解決し、サブスクリプションとEコマースでユーザーとの関係を深める」という、三層構造のエコシステムを構築していると言えるでしょう。

事業モデルの強みと構造を把握した上で、次章ではその実力を数字で確かめるために、5年分の業績推移と直近の黒字転換の実態を検証します。

第2章|業績分析|先行投資から黒字転換へのロードマップ

5年間赤字を続けたエブリーが、なぜ今上場を選んだのか。業績数値を丁寧に読み解くと、先行投資の回収フェーズへの転換という戦略的な意図が見えてきます。

売上高5年間推移と成長ドライバーの変化

同社目論見書および有価証券届出書(EDINETにて開示)の数値を基に、私が2026年7月6日時点で確認・整理した業績推移は以下の通りです。売上高は2021年6月期の20億92百万円から2025年6月期の42億50百万円へと、4年間で約2.0倍に拡大しました。成長率の推移を見ると、2022年6月期が前期比+15.9%、2023年6月期が+6.4%とやや鈍化した時期がありましたが、2024年6月期に+30.2%、2025年6月期に+26.5%と再加速しています。

決算期 売上高(百万円) 前期比 経常損益(百万円)
2021年6月期 2,092 ▲1,372
2022年6月期 2,425 +15.9% ▲1,004
2023年6月期 2,580 +6.4% ▲544
2024年6月期 3,360 +30.2% ▲644
2025年6月期 4,251 +26.5% ▲30
2026年6月期(予想) 5,010 +18.0% 黒字転換(予想)

出典:同社有価証券届出書(EDINET掲載)、2026年6月期業績予想は同社IR資料より。単位:百万円

ただ、正直に言うと、2024年6月期の経常損失が▲544百万円から▲644百万円へと拡大した点は当初気になりました。売上高が+30%成長しているにもかかわらず損失が拡大した背景には、この時期に店頭デジタルサイネージの設置台数を急速に拡大させるための先行投資が集中したためと推測されます。2025年6月期の経常損失が▲30百万円まで急激に縮小したのは、その投資の果実が収穫期に入ったことを示しているでしょう。

2026年6月期3Q累計で見えた黒字転換の確度

同社が開示した2026年6月期第3四半期(2025年7月〜2026年3月)の累計業績は、売上高38億30百万円、経常利益3億23百万円、四半期純利益3億20百万円となりました。3四半期累計で既に経常利益が3億円を超えており、通期(4月〜6月を加えた年度合計)での黒字化はほぼ確実と見て良い状況です。私が2026年7月6日時点で同社IRページを確認したところ、会社が開示している2026年6月期通期業績予想では、売上高50億10百万円・営業利益3億47百万円・経常利益3億24百万円・当期純利益3億50百万円を見込んでいます(同社2026年6月期業績予想公表資料より)。

これをもとに算出すると、想定公開価格230円に対するPER(株価収益率)は約13.6倍、予想BPS(1株純資産)ベースのPBR(株価純資産倍率)は約2.6倍となります。グロース銘柄としてはPERが低め(割安とも見える)な水準ですが、これは過去の赤字累積によりBPSが低い点と、成長率がグロース投資家の期待値を満たすかどうかという点の両面を慎重に見る必要があります。

⚠ 注意
2026年6月期の黒字転換はほぼ確実と見られますが、翌2027年6月期以降の継続的な利益成長を示す中期計画は目論見書記載時点では限定的です。単年度の黒字化だけでなく、利益の拡大軌道が描けるかを確認することが重要です。

ロイヤル顧客(年間1,000万円以上)増加が示す収益の質

エブリーの成長戦略において最も注目すべき指標が、年間取引額1,000万円以上のロイヤル顧客数の推移です。同社目論見書によると、ロイヤル顧客数は2024年6月期の42社から2025年6月期に62社、2026年6月期第3四半期累計では66社へと継続的に増加しています。この数字が重要な理由は、大型契約顧客が増えることで売上の安定性と予測可能性が高まるからです。スポット的な広告出稿ではなく、年間を通じた総合マーケティング契約として関係を深めることで、解約リスクを下げながら顧客単価の向上を狙う成長戦略が実行されていることが確認できます。

ただ一方で、同社のリスク要因として「一部大型顧客(KDDI関連)への依存」が目論見書に明記されています。第2位株主であるKDDIグループとの取引は安定的な売上源である反面、関係が変化した場合の影響が大きくなる可能性があります。この点は楽観・悲観のどちらのシナリオでも必ず頭に入れておくべきリスクです。なお、著名なIPO投資家であり株式投資の書籍を多数執筆している藤本誠之氏(日本証券業協会の研究委員も務めた実績を持つ)は、2026年のグロース市場について「黒字転換直後の小型株は投資家の期待が集まりやすいが、成長率の鈍化が確認された瞬間に評価が急変するリスクがある」と指摘しており(株式情報サイト・フィスコ掲載のコメントより)、エブリーにもこの視点は当てはまると考えられます。

業績の実態を把握したところで、次章では投資判断に直結するIPOの数字、特に「なぜ想定時価総額が過去の調達評価額より80%以上低いのか」というダウンラウンドの構造と需給面の課題を詳しく解説します。

第3章|IPO概要と需給分析|ダウンラウンドと売出比率の実態

初値形成に最も影響を与えるのは「需給」です。エブリーIPOには複数の需給リスクが存在しており、それぞれを正確に理解した上で申込判断を行うことが求められます。

IPOスケジュール・公募価格・吸収金額の基本データ

同社が2026年6月30日に開示したIPO承認プレスリリースおよびSMBC日興証券が主幹事として公表した資料(私が2026年7月6日時点で確認)によると、基本的なIPO概要は以下の通りです。ブックビルディング(BB)期間は2026年7月17日(金)から7月24日(金)、仮条件は7月16日(木)に発表予定、公開価格決定日は7月27日(月)、上場日は2026年8月4日(火)です。

項目 内容
想定公開価格 230円(最低購入金額:約2.3万円)
想定時価総額 47.7億円
吸収金額(OA含む) 約15.7億円
公募株数 1,105,300株(全体の18.7%)
売出株数 4,815,100株(全体の81.3%)
OA(オーバーアロットメント) 888,000株
オファリングレシオ 32.8%(市場に出回る株式の割合)
主幹事証券 SMBC日興証券(東証上場承認ページで確認)

出典:株式会社エブリー「新株式発行及び株式売出しに関する取締役会決議のお知らせ」(2026年6月30日付)

最低購入金額が約2.3万円という低単価は、短期資金が入りやすいという観点からポジティブな要素です。歴史的なデータから見ても、想定価格が1,000円未満のIPOは初値騰落率が高い傾向があります。しかし、売出比率が81.3%という高さは注意が必要で、公募で集まる資金の多くが会社の成長投資に使われるのではなく、既存株主の手取りになることを意味しています。

ダウンラウンド構造:累計調達額133億円vs想定時価総額47.7億円

エブリーのIPOで最も議論を呼ぶのが、ダウンラウンド(過去の資金調達時の評価額よりも低い企業価値評価での上場)の構造です。庶民のIPO(ipokabu.net)の分析によると、2022年7月時点の調達後評価額は約240.5億円でした。それに対し、2026年8月上場時の想定時価総額は47.7億円であり、当時の評価額を約80.1%下回る水準となっています。創業から累計で調達した資金は133億円に及ぶ一方、IPO時の企業価値がその3分の1以下になっている事実は、後半ラウンドで出資した事業会社やVCにとって投資元本の大部分が回収困難な水準であることを意味します。

私がこの銘柄で迷った理由のひとつが、まさにここにあります。ダウンラウンドIPOだからといって必ずしも初値が公募割れするわけではありません。過去のデータを見ると、LiNKX(584A)も同様のダウンラウンド構造でありながら、2026年6月23日の上場では1.36倍という結果を残しています。しかし、ダウンラウンドIPOはVC・事業会社が損失確定を避けようとする心理から投資家の不信感を招きやすく、相場環境が悪化した局面では公募割れリスクが高まるという傾向は否定できません。

ロックアップ期間と解除条件が需給に与えるリスク

ロックアップとは、上場後一定期間、主要株主が持ち株を市場で売却できないようにする制度です。エブリーの場合、代表取締役の吉田大成氏・KDDI・伊藤忠食品・加藤産業などの主要株主は上場後180日間(2027年1月30日まで)のロックアップが設定されています。一方、WiL Fund II・DCM Ventures・グロービス5号ファンドなどのVC(ベンチャーキャピタル)には90日間または公開価格の1.5倍(345円以上)でロックアップが解除されるという条件が付いています。

VCが保有する株式の合計は発行済み株式総数の約31.4%に相当します。90日ロックアップ解除日である2026年11月1日以降、あるいは初値が345円を超えた瞬間からVCによる売却圧力が生じる可能性があります。セカンダリー(上場後の市場取引)で中長期保有を検討する投資家にとって、この解除日前後のボラティリティ(価格変動の大きさ)には十分な注意が必要です。オファリングレシオ32.8%という水準は、同市場・同業種の平均と比べてやや高い水準にあり、市場に出回る株式数の多さが初値圧迫要因となる可能性があります。

需給の構造リスクを踏まえた上で、次章では同じ「食×メディア×広告」領域で競合するクラシル(299A)とくふうカンパニーHD(4376)との比較を通じて、エブリーの相対的な評価ポジションを明らかにします。

第4章|競合比較|「食×メディア×広告」3社独自比較フレームワーク

エブリーを単独で評価するより、同じ市場で戦う競合と比べることで、その強みと課題がより鮮明になります。本章では「食×メディア×広告」という独自軸で3社を比較します。

クラシル(299A)との事業完成度・収益性の比較

クラシル(証券コード:299A、旧社名delyからdely Tech Inc.を経て現称)は、エブリーと最も直接的に競合するレシピ動画メディア企業です。両社を比較すると、規模感の違いが鮮明です。クラシルの2026年3月期売上高は約170億円で、エブリーの2026年6月期予想50.1億円の約3.4倍に達します。営業利益率においてもクラシルが約20.4%に対してエブリーが約6.9%と、収益性の面では大きな差があります。クラシルはレシピメディア以外にも、ライフスタイルメディア「TRILL」やライブコマースなど複数の収益柱を持ち、事業の多角化が進んでいます。

一方でエブリーの差別化要素は、レシピメディアと実店舗(11,000台超のデジタルサイネージ)を組み合わせたオンライン・オフライン統合データプラットフォームの構築です。クラシルがデジタル完結型のメディア事業を中心としているのに対して、エブリーは食品・飲料の流通(スーパーマーケット等)における購買行動のデータを持つという独自のポジションにいます。このオフラインデータの強みは短期的には収益化が難しいですが、食品メーカーのリテールメディア(小売の場を活用した広告手法)需要が高まる中で長期的な競争優位性になる可能性があります。

くふうカンパニーHD(4376)との市場アプローチ比較

くふうカンパニーHD(証券コード:4376)は、チラシ・買い物情報サービス「くふう トクバイ」や家計簿アプリ「くふう Zaim」を中心に、生活領域のサービスを幅広く展開する企業です。売上高は2025年9月期で約141億円と、エブリーより大きな規模を持ちます。ただし、営業利益率は約3.7%とエブリーの6.9%を下回っており、事業多角化に伴うコスト構造の複雑化が収益性の課題と言えるでしょう。

アプローチの違いも明確です。くふうカンパニーHDは「チラシ・価格比較」という消費者の節約・比較需要を起点にユーザーを集めているのに対し、エブリーは「レシピ・料理」という料理体験を起点にユーザーとの関係を構築しています。食品メーカーの広告出稿という観点では、「購買直前のユーザー」を捉えやすいくふうトクバイと「食に対してポジティブな感情を持つユーザー」を持つデリッシュキッチンでは、広告効果の訴求ポイントが異なります。エブリーはブランド好意度向上から購買促進まで、より上流から下流までのフルファネル(マーケティングの各段階を包括した概念)で貢献できる点を強みとして訴求しています。

3社PER・PBR・営業利益率の独自スコアリング

私が2026年7月6日時点で各社の開示情報を元に整理した3社比較は以下の通りです。エブリーの予想PERは13.6倍と、クラシルの16.6倍より低く、単純な割安感はあります。しかし、売上規模・利益率・事業の多角化度などを総合的に評価すると、エブリーがクラシルより高いバリュエーションを付けられるまでには、まだ数年の時間軸が必要になる可能性があります。

指標 エブリー(607A)想定 クラシル(299A) くふうカンパニーHD(4376)
時価総額 47.7億円 411億円 92億円
売上高(直近) 50.1億円(予) 170.0億円 141.1億円
営業利益率 6.9%(予) 20.4% 3.7%
予想PER 13.6倍 16.6倍
PBR 2.6倍(予BPS) 3.0倍 1.1倍
配当利回り 0% 0% 0%

出典:各社IR資料・有価証券報告書(EDINET)、エブリーは2026年6月期業績予想ベースの参考値。2026年7月6日時点で筆者確認。

独自のスコアリングとして「食×メディア×広告」3社を「収益性」「成長性」「データ独自性」という3軸で評価すると、エブリーは収益性でクラシルに劣る一方、食品流通のオフラインデータを組み合わせたデータ独自性という軸では優位性があると言えるでしょう。この独自性がどれだけ広告主への価格交渉力・顧客単価向上につながるかが、今後の評価を左右する最大のポイントと考えられます。

競合比較で相対的な立ち位置を確認した上で、最終章ではいよいよ初値予想のシナリオ分析と、実際の申込戦略・証券会社選びについて解説します。

第5章|初値予想と申込戦略|シナリオ別レンジと証券会社選び

ここまでの分析を踏まえ、実際の申込判断に直結する初値シナリオと戦略的な証券会社選びを整理します。複数のシナリオを持つことが、IPO投資でのリスク管理の基本です。

楽観・中立・悲観シナリオ別の初値レンジ試算

以下のシナリオ分析は、私が2026年7月6日時点で確認した各種公開情報(同社目論見書、有価証券届出書、各社初値予想、過去のダウンラウンドIPOデータ)をもとに独自に試算したものです。あくまで参考情報であり、実際の結果を保証するものではありません。

シナリオ 初値レンジ(想定) 想定価格比 主な前提条件
楽観シナリオ 345円〜460円 1.5倍〜2.0倍 日経平均好調・仮条件上限設定・低単価への短期資金集中
中立シナリオ 250円〜345円 1.1倍〜1.5倍 相場環境安定・需給の重さを織り込んだ標準的な評価
悲観シナリオ 185円〜250円 0.8倍〜1.1倍 相場急落・ダウンラウンドへの不信感・仮条件が想定を下回る設定

複数のIPO情報サイトの初値予想(2026年7月6日時点)を横断すると、かぶリッジ独自予想がB評価(1.3倍〜1.5倍未満、299円〜344円)、庶民のIPOが250円〜300円(1.1倍〜1.3倍)と、やや見方が分かれています。本記事執筆時点での中立シナリオの幅広さが示す通り、仮条件の設定水準と8月上旬の相場環境が初値を大きく左右すると考えられます。楽観シナリオでは「デリッシュキッチン」の圧倒的な知名度と低単価への短期資金流入が追い風となり、1.5倍超の展開も十分あり得ます。悲観シナリオでは、ダウンラウンドへの警戒感と売出比率の高さから公募割れに至る可能性も残ります。

⚠ 注意
8月4日の上場日周辺は、夏季休暇期間と重なるため機関投資家の売買参加が少ない場合があります。薄商いによる価格変動の増幅には注意が必要です。また、仮条件が想定価格230円から大幅に乖離した場合は、本シナリオから初値レンジを修正して判断することをお勧めします。

主幹事・幹事証券別の特徴と申込優先順位

エブリーのIPOを取り扱う証券会社は、主幹事のSMBC日興証券を筆頭に、SBI証券・マネックス証券・松井証券・丸三証券の5社です。申込戦略の観点から各社の特徴を整理します。SMBC日興証券は主幹事として最大の割当数を持ちますが、ステージ別抽選(預け資産残高に応じた優遇)という仕組みがあり、資産が少ない投資家には不利な側面があります。

資金力に関係なく平等にチャンスがある点ではマネックス証券が最もおすすめです。マネックス証券は完全平等抽選を採用しており、1口申し込んだ投資家が100口申し込んだ投資家と同じ確率で当選できます。松井証券はブックビルディング時に抽選資金の事前入金が不要なため、資金を拘束されずに複数銘柄へ同時に申し込める利便性があります。SBI証券は幹事取扱いが非常に多く、落選した場合でもIPOチャレンジポイント(落選回数に応じて貯まるポイント)が蓄積できるため、長期的なIPO投資継続の観点から口座保有の価値があります。なお、各証券会社のIPO取り扱い状況や条件詳細は金融庁の登録証券会社情報や各社公式サイトで必ずご確認ください。

IPO後のセカンダリー投資で意識すべきイベントカレンダー

公募当選した場合の初値売りだけでなく、上場後の株価推移を見てセカンダリー(市場での買い直し)を検討する投資家向けに、重要なイベント日程を整理します。まず、2026年11月1日前後のVC保有株式ロックアップ解除は最大の需給イベントです。VCが保有する合計約31.4%の株式について、売却制限が解除されるため、これを前後してVC各社の売却動向に注目が集まります。実際に過去のVC多保有ダウンラウンドIPOでは、ロックアップ解除直前から株価が下押しするケースが見られます。

次の重要イベントは2026年8月〜9月頃に発表が予想される2026年6月期の本決算(通期決算)です。黒字転換が確定し、かつ2027年6月期の業績予想が市場期待を上回る内容であれば、株価には上昇材料となります。一方、2027年6月期の成長率が低い数字であれば失望売りにつながる可能性があります。また、2027年1月30日の主要株主ロックアップ180日解除も中期保有者が意識すべき日程です。これらのイベントカレンダーを事前に把握しておくことで、保有継続・売却のタイミングを戦略的に判断することができます。

5つの章にわたる分析を踏まえ、最後のまとめでエブリーIPO申込判断の最終チェックポイントを整理します。

まとめ|エブリーIPO申込判断の最終チェックリスト

株式会社エブリー(607A)は、国内最大級のレシピ動画メディア「デリッシュキッチン」を核に、オンライン×オフラインの食データプラットフォームを構築し、黒字転換直後のタイミングで上場する小型グロース銘柄です。知名度・データ資産・成長市場(リテールメディア)という3つの追い風がある一方、ダウンラウンド構造・高い売出比率・VCのロックアップ解除という3つの需給リスクも存在します。両面を正確に理解した上で申込判断を行うことが重要です。

  • デリッシュキッチンは月間利用者数3,100万超・店頭サイネージ11,000台超の「食」データプラットフォームで、単なるレシピサイトを超えた広告ソリューション企業である。
  • 売上高は5年間で2倍に拡大し、2026年6月期は3Q累計で経常利益3.23億円を達成、通期黒字転換がほぼ確実な状況にある。
  • 想定時価総額47.7億円は累計調達額133億円・2022年評価額240.5億円を大幅に下回るダウンラウンドIPOであり、売出比率81.3%・オファリングレシオ32.8%と需給面は重い。
  • 同業クラシル(299A)と比較すると売上規模・営業利益率で大きく劣るが、オフライン食品流通データというデータ独自性では差別化できている。
  • 初値シナリオは楽観で1.5倍〜2.0倍、中立で1.1倍〜1.5倍、悲観で0.8倍〜1.1倍と幅広く、仮条件設定と相場環境が最大のカギとなる。

ただし、投資する際は各社の業績・財務状況・市場環境を総合的に判断することが大切です。

仮条件が発表される7月16日以降に本記事で示したシナリオレンジと照らし合わせ、公募価格に対する割安感を再確認した上で申込判断を進めてみてください。

関連記事:IPOスケジュール一覧【2026年】|かぶリッジ

【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。 投資判断はご自身の責任において行ってください。
掲載データは執筆時点(2026年7月6日)の情報に基づいており、 最新情報は各社IR・ EDINET金融庁東証 にてご確認ください。

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