ドナルド・トランプ氏とイーロン・マスク氏の間に、米国政界を揺るがす新たな火種が生まれています。2025年7月6日、ニュージャージー州の空港での記者会見において、トランプ氏はマスク氏が設立を表明した「America Party」を「ばかばかしい(ridiculous)」と一蹴し、米国の二大政党制の堅牢さを主張。「第三勢力が機能した試しはない」とまで語り、政治構造を揺るがしかねない動きに強い懸念を示しました。
さらに自身のSNS「Truth Social」ではマスク氏に対し、「完全に道を踏み外した(off the rails)」、「まるで脱線列車のようだ(train wreck)」といった厳しい言葉を投げかけました。マスク氏が過去に関与していたEV補助金政策やNASA関連人事を引き合いに出し、「今になって政界へ進出するのは矛盾している」と痛烈に批判。彼の一連の行動が「混乱とカオスを引き起こすだけだ」と警鐘を鳴らしました。
この発言に呼応するように、米財務長官のスコット・ベセント氏もテレビ番組で同様の懸念を示しました。「新党は国民の注目は集めているが、マスク氏自身の人気に直結するものではない」と語り、彼の影響力に過剰な期待は禁物だと警告しました。さらに、「テスラやスペースXの経営陣は政治よりも事業に集中するよう彼に促すだろう」とも述べ、新党設立の現実性に疑問を投げかけています。
市場もこの動きを冷静に見ています。テスラ株はプレマーケットで約7%下落。さらに、テスラ関連のETFを準備していた投資会社Azoriaは、新商品の上場延期を発表。マスク氏の政治的活動が企業価値や投資家心理に与える影響が現実化しています。アナリストからは「規制リスクや財務懸念が増す」との指摘が相次いでおり、政治参入は経済的にも賛否を呼ぶ大きな分岐点となりつつあります。
一方で、マスク氏が推進している新党の理念は、現行の「大型歳出法案(One Big Beautiful Bill Act)」に対する強い反発をベースとしています。X(旧Twitter)で実施された世論調査では、約65%の支持を獲得。若年層や政治的中道層を中心に一定の共感を呼び、2026年の中間選挙で“スイング勢力”として議席確保を狙うと見られています。これにより、今まで無党派層として埋もれていた票を掘り起こす可能性も否定できません。
また、今回の新党設立構想は単なる政治ショーにとどまらず、テクノロジー業界と政治の距離感にも新たな課題を投げかけています。AI、宇宙開発、EVといった先端分野で実績を築いてきたマスク氏が、政策や立法の現場にまで踏み込むことで、ロビイングや利益相反の問題も浮上する可能性があります。これまで政治とは一定の距離を保っていたシリコンバレーの経営者たちも、マスク氏の動向を注視している状況です。
さらに、トランプ氏の発言の裏には、2028年大統領選に向けた布石という側面もあると見られます。マスク氏の動きによって保守層の一部が分裂すれば、自身の再選への道が遠のく可能性があるため、今のうちに芽を摘んでおこうという意図があるとも言われています。また、SNS上での発言は支持者へのメッセージ性も強く、マスク氏との対決姿勢を鮮明にすることで、自らの政治的求心力を保とうとしているようにも見えます。
なお、マスク氏が設立を目指す「America Party」は、従来の保守・リベラルの枠を超えた“テクノクラート的政党”を志向しているとも言われ、財政規律と技術革新を軸とした新しい政策アジェンダを提示する可能性もあります。これは既存の有権者層に加え、政治的無関心層にも訴求する力を持ちうるため、今後の展開次第では全米の政治地図を塗り替える存在となるかもしれません。
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